St. Ignatius at the River Cardoner

うつ(落ち込み)に取り組むための

イグナチオ的*手引き

ブレンダン・マクマヌスS J著 酒井陽介S J編訳

​イラスト

"Ignatius at the River Cardoner," Meg Roxas

聖イグナチオ・ロヨラ自身に大きなうつの経験があり、自殺をしかけるまで追い込まれたことがあるのを知っている人は、あまり多くありません。彼はすぐに、うつには、破壊的な力があって、自分の考え方や行動を変えなければならないことに気づきました。彼は、極端になりがちで、断食をしたり、自分を追い込んだりして、健康を害していたのです。現代の認知行動療法(CBT)のように、彼は自分の考えや祈りの習慣がどれほど合理的かを調べる知恵を持っていました。そこで、表面的には良いように見えても、それが悪い方向に向かわせていることに気づきました。例えば、何時間も観想の祈りに費やしても、次の日は、疲れ切って勉強もままならない、など。理想主義や完璧主義は、一見良いように見えても、非常に破壊的なものになり得ます。イグナチオはバランスについて重要なことを学びました。例えば、物ごとには、適量があり、過ぎれば、害となるということです。それでは、ストレスの最適な量、運動、食事、社会生活など、生活の中で様々なことのバランスをどうやって保つのか考えてみましょう。ここで、私たちの心理的健康のバランスを保つためのいくつかのイグナチオ的ヒントを紹介します。

Image by Kristina Tripkovic

1. 誰かに相談する。悩みを頭の中に残したままにすれば、いずれ頭を混乱させます。誰かに話すという単純な行為は、あなたに見通しを与え、緊張を半減させ、よりバランスのとれた取り組みを与えてくれます。非常に大切なのは、いつ助けを求めるかを知ることと、誰に心を開くべきかを知ることです。それは、信頼できる友人、専門的な聴き手(良き隣人、カウンセラー、霊的同伴者など)に相談することです。

Friends Having Coffee

2. 必要であれば、専門家の助けを借りる。代替的な解決策やあやしい療法に手を出さないで、身近な医療の援助を受けてみましょう。他の人にどんな効果があったかを調べてみましょう。うつ的気分や落ち込みが数週間以上続いている場合は、緊急の介入が必要です。いつの間にかに、治るということはありません。

Psychologist Session

3. あなたは、あなたの感情そのものではない。感情は、魅力的に思えますし、世界に訴えかける力を持っていますが、私たちは、感情とうまくやって行く方法を学ばなければなりません。感情といい距離を保ち、それらに巻き込まれることなく、行き来できるようにするのです。助けになる簡単な黙想は、次のようなものです。まず、立ち止まります。ヘッドフォンで音楽を聞いているつもりになって、静かな場所を見つけます。どのように感じているかを自分自身に尋ねます。すると、あなたとあなたの気持ちの間に小さな隔たりがあることに気づくでしょう。その隔たり・ズレに留まります。その中に入ると、静けさと空洞のようなものがあって、そこは、いろいろな可能性に満ちています。毎日、数分間、この隔たりの空間(スポット)のなかでくつろいでみてください。感情の強さに関係なく、あなたの気持ちが、言ってみれば、雲のように、行き来するのを見る訓練します。これは、あなたが危機に直面するときに役立ちますし、さらには、あなたのいのちを救うかもしれないのです。

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4. ネガティブな傾向と対峙する。ジムに行ったり、仕事をしたり、人に会ったりするのを、気分がすぐれないからと諦めてしまう人によく出くわします。それは孤立や引きこもりを助長するので、悪循環に陥りやすいのです。ここでのルールは、次の通りです。効果のあると思われること、とくに運動や、食事制限や、付き合いなどをしっかり続けること。すると、気分が上向きになります。ただ、それを実行してください。

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5. 意識すること、そして、少しずつ変化していくことを実践する。人間であることは、機械が、新しい部品に交換すれば済むように、急に修正することはできないことを意味します。普通は、変化が起きるために、ある程度の時間と訓練が必要です。徐々に変化が伴う「プロセス」が必要になります。何かをするとき、自分の気持ちに気づいて、どこに変化をもたらしたいかと、少しばかりの意識を持つのは、いいことです。生き生きとさせる決断もあれば、気持ちが揺らぐような決断もあります。これらの変化がいつ、どんな時に起こるかを意識すれば、「調和」を保ち、小さな前向きな調整をすることができます。イグナチオ的な「一日の振り返り」(Examen)の祈りは、小さな変化に気づいて、調整するのに非常に役立ちます

Notebook and Pencil

6. 未来を信じる。痛みが、永遠に続くことはありません。希望と展望を持つことは、困難な時を乗り切るために重要なことです。聖イグナチオの言う「不偏心」や「内なる自由」は、すべてが完璧であることや至福の感情を持つことにあまりに執着し、拘らないで、しっかり生きて、いい働きができるようになるために有用です。現実は、はるかに、平凡で、浮き沈みに満ちているのに対し、世界は、あまりに理想化された状況を提示するので、これに対峙するために、訓練を必要とします。広く、長い目で見れば、感情に激しく振り回されないで、小さなことの中にも美しさを見出し、困難にもユーモアのセンスを持って、取り組むことができます。

Image by Zhaoli JIN

7. 神が罰として、あるいは苦しめるために、この私にうつを送られたのだと想像して、「霊的に処理する」ことはしない。うつは、多くの人が経験するごく一般的な人間の経験です。自分を助けるためにできることがあり、それをする必要があります。そして、神に委ねなければならないことがありますが、それこそが、自分の状況の現実を受け入れ、そこから逃避しない、本当の祈りとなります。旧約聖書の詩篇の中には、人間の生きるありようを表現したものがあります。「深い淵から神よ、あなたに叫びます」、「あなたの手に私の霊を委ねます」、「なぜあなたは私を見捨てたのですか」などです。あなたがすることと神に求めることの間のバランスに注目しましょう。すべてが、自分にかかっているというのでも、反対に、すべて神まかせということもなく、むしろ、そこには、神と人間の間に交わされる、本当の関わりがあり、責任を分かち合っているのです。

Image by Ricky Turner

8. もし、あなたが今、地獄のような状態を経験していても、進み続けてください。最も助けになるのは、その日の1日の組み立てを持つことです。 仕事、ミーティング、食事、運動、そして気晴らしの時間のリズムを作る。多くの場合、私たちはそれについてあまり考えずに自動的に動いています。しかし、危機に直面したときには、これが人生の嵐の中での本当の錨になり、非常に重要になります。重要なことの一つは、嵐の中で、1日の組み立てやルーチンを変更(それは、非常に大きな誘惑ですが)しないことです。むしろ、気が進まなくても、確実に、単純なことを続けていきましょう。その日に、良いスタートを切り、寝すぎの誘惑に負けないようにするのです。

Japanese Calendar

9. 自分がすることに意味と目的を見つける。うつは、私たちの限界と来るべき終わりを思い出させます。人間は、すべてを手中に治めることはできませんし、人生とは、辛いものです。小さなことでも、他の人につながる簡単な方法があります。他人の痛みを見ると、私たちは皆、苦しんでいることを思い出させてくれます。そして、こうした小さなつながりは、私を、他者とより大きな人間の旅路につなげてくれます。自分自身に優しくすることを学び、神が思いやり深い方であるように思いやりを持って、すべてを受け入れて、プラスになるようなことは何でもやってみましょう。

Image by Masaaki Komori

10. 信仰を持ったり、大いなる力に信頼を寄せたりすることは、メンタルヘルスにとって、鍵となります。私たちは良いものであり、神聖な存在、または、大いなる存在によって創造されたと信じることは、強固な基盤づくりに役立ち、ポジティブになることができます。多くの場合、私たちは、神の否定的なイメージ(裁判官、法律家、口うるさい親など)を受けついでいます。ポジティブなメンタルヘルスと回復には、私たちのイメージと祈りの仕方を立て直す必要があります。そうすれば、自己の肯定的なイメージが促進され、この世界に居場所を見つけ、心にかけてくださる、近くにいる神を感じることができるのです。

Image by Alexandre Chambon

11. かつて、いただいた慰めを思い起こす。うつは、自分を惨めに思ってしまう傾向が強くあります。重い灰色の空が、頭上に広がっているようなものです。その中で、いつしか、太陽はもう顔を覗かせることがないものだと、思い込み、自分の存在がこの世界の、親しい人たちにとって重荷であるかのように感じてしまうものです。愛してくれている人の声も届かず、ただただ、痛みからの解放を願うことがあります。それでも、力が失われ、生きる希望がなかなか見出せないとき、あなたを大切に思ってくれている人の笑顔や、楽しかった日々、聖書的に言うならば、神との「はじめの頃の愛」を思い出してみましょう。あなたの存在は、尊く、かけがえのないものなのです。

Life Photographs

12. 優しいこころをたくましく育む。「空気を読む」と言う表現があります。うつに陥りやすい人は、責任感が強く、配慮ができる人が多いのは、偶然のことでしょうか?聖イグナチオが、生来の完璧主義と対峙しなければいけなかったのは、マンレサの洞窟での、自分を見つめ直す日々でした。彼は、過去の過ちや自分の不完全さに、必要以上に、心を痛め、不安に囚われてしまったのです。「空気を読む」と言うのは、確かに誠実で、心の優しい人が感じる葛藤とも言えます。それでも、空気を読みすぎて(・・・)、自信を失ったり、自分の至らなさ(不完全さ)を嘆いたりしても、誰にも良い結果をもたらしません。ここで大切なのは、責任や不安をひとりで全部、背追い込まないこと、そして、聖イグナチオがそうしたように、過去の自分(の過ちや失敗)にきっぱりと別れを告げ、新しい自分を認めることが、大切になります。毎日、葛藤を感じながら生きていくため、その意味での、たくましさを神に願うことは、うつ(落ち込み)と取り組んでいくために欠かせないことです。

Mother and Daughter

*1から10は、マクマヌスによるオリジナルの翻訳。11から12は、酒井による追加分。

*イグナチオ的とは、「聖イグナチオ・ロヨラが生き、伝えた霊性に基づいた」という意味です。『霊操』は、その最も代表的な霊的遺産です。イエズス会の伝統という限られた範疇を超え、聖イグナチオ・ロヨラの霊性を受け継ぎ、生きている多くの修道会や信徒のグループが存在し、現代もイグナチオ的霊性を実践しています。

イエズス会について

「神のより大いなる栄光のために」を旗印として、教皇の下で、キリストと教会が望んでいるあらゆる使徒職への派遣に応えようと、日々クリエイティブな挑戦を試みています。

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